③ 現地の味シリーズ <山形の「だし」編>
全国の「てしごと」を巡る旅をしていると、今まで知らなかった「現地の味」に出会うことがあります。それはグルメサイトなどに載るような有名店の味ではなく、むしろこれまで知ることのなかった素朴で隠れた地元の名産品であることが多いのです。そんな忘れられない味を、シリーズとして皆様にご紹介していきます。
その日は、東北の工芸調査と買い付けの旅の最中でした。出羽三山の文化が色濃く残る鶴岡の山あいを訪ね、その夜泊まった宿の朝食で、小さな鉢に盛られた緑鮮やかな料理に出会いました。
それが山形の郷土料理「だし」でした。
きゅうり、ナス、みょうが、大葉などを細かく刻み、昆布や醤油などで和えた、実にシンプルな一品です。例によって買い付けの移動続きで少し疲れの残っていた朝でしたが、冷んやりとした「だし」をご飯にのせて口へ運ぶと、シャキシャキとした瑞々しい食感と、爽やかな薬味の香りが一気に広がりました。
(むむ……これは)
さっぱりとしているのに、昆布の旨味と野菜本来の味が絡み合い、驚くほど深い奥行きがあります。派手さは一切ありませんが、汗ばむ夏の体にじわじわと染み渡るような、まさに夏に食べるべくして生まれた食べ物だと感動しました。
これがあるとご飯がいくらでも食べれてしまう。成人病の人間にとっては、まさに悪魔の食べ物です。
その翌日、今度は将棋と木工の町・天童の宿に泊まりました。朝食の膳の冷奴に再び「だし」が掛かっていたので、喜んで口にすると、鶴岡のものとはまた少し雰囲気が違います。
天童の「だし」は、刻み加減や粘り気、醤油の風合い、薬味の効かせ方が微妙に異なり、ほんのり優しい塩梅に仕上がっていました。同じ山形県内であっても、地域や家庭、宿ごとにそれぞれの「我が家の味」が存在し、どれ一つとして同じものがない。その奥深さを知った瞬間でした。
すっかり「だし」の魅力に取り憑かれた私は、沖縄の自宅に帰ってからも、スーパーで夏野菜を見かけるたびに自分で作るようになりました。
包丁でトントンと無心で野菜を刻む時間は、どこか手仕事の道具に向き合う時間に似ていて悪くありません。本場の味を思い出しながら、オクラを足してみたり、梅を混ぜてみたり、めかぶやもずくに混ぜてみたり、時にはソーメンの付けタレにしてみたりと、自分流のアレンジを加えながら、夏の間じゅう何度も食卓に登場させています。
しかし、それはそれで美味しいのですが、「だし」はやはり、厳しい山形の夏で食べてこそ、という気がします。それは、その土地の気候風土と、長年受け継がれてきた暮らしの知恵が詰まっているからなのだと思います。
山形の夏を乗り切るための「だし」。
鶴岡と天童の宿で味わったあの爽やかな風味を思い出すたび、青々とした東北の夏と、丁寧な手仕事に携わる作り手たちの笑顔が鮮やかによみがえってくるのです。
