canosa story Vol. 13 古代布・関川のしな布

canosa story Vol. 13

今回は山形県のしな布についてご紹介します。(吉良のレポート)

関川は山形県鶴岡市中心部から30キロほど南に位置する自然豊かで美しい風景が魅力の集落です。実際に国道345号線を鶴岡市内から関川に向かって車で走ると信号はほとんどなく、30~40分ほどで「関川しな織センター」に着きました。お盆過ぎのまだまだ暑い日に伺いましたが、蝉の鳴き声とせせらぎの音以外聞こえない静かで美しい場所です。

「関川のしな布(しなふ)」は、山形県鶴岡市関川地区で古来より製造されている織物ですが、新潟県村上市山北地区を中心とする下越地方でも古くから地域の特産品として作られており、その両地域で作られるしな布は、羽前(山形県)と越後(新潟県)の頭文字を合わせて「羽越しな布」と呼ばれています。

しな布は沖縄の芭蕉布、静岡の葛布と並んで日本三大古代布と言われており、木綿普及以前の生活用品として日常的に使われてきました。シナノキやオオバボダイジュの樹皮繊維から作られる「しな布」は2005年に「羽越しな布」として国の伝統的工芸品に指定されました。しなの繊維の利用は古く、縄文時代から使われていたと言われています。材料の採取から機織りまで22の工程を約1年をかけてつくられる布は、水に強く頑丈です。そのため、古くは農作業着や 米袋、漁網、漉し布などとして活躍していました。現在では温かく素朴な佇まいをもつ布として、帽子やバッグ、着物帯などとして珍重されています。

しな織ができるまでは気の遠くなるような下記の工程を経ます。「織り」に目がいきがちですが、糸を作るまでの作業に多くの時間が必要なのです。

①皮はぎ (6月中旬~下旬・1日間)  
シナノキを切り倒し、枝を落とします 樹皮を剥いで、次に表皮を剥ぎます。

②乾燥 (7月中旬・7日間)
日光で充分に乾燥させ、屋根裏部屋などに保管します。

③水つけ
「しな煮」の2日くらい前に、家の前の池につけておきます。

④巻き
水に浸しておいた皮を取り出し、釜の大きさに合うように巻いて十文字に結います。

⑤しな煮(8月上旬・4日間) 
赤土で作った竈に大釜をのせ、巻いた皮と、木灰、ソーダ、水を入れて約1012時間煮ます。 

⑥へぐれたて(8月中旬・2日間)    
釜から出してサッと水洗いをした後に両手で揉みほぐし、11枚層ごとに剥がしていきます。

⑦しなこき(8月下旬)         
川に持って行き、流れの方向に何回となく、こいていきます。石や竹棒を使う人もいます。こくことにより。繊維だけが残り、幅広い1枚もので柔らかくなります。

⑧しな漬け(9月上旬・2日間)     
カセにした「しな」を大きな桶に入れ、こぬかと水で2昼夜漬け込みます。

⑨洗い                
川できれいに洗います。

⑩しなほし(9月中旬・2日間)     
「しなさき」まで保存しておくために、軒先などにつるして完全に乾燥させます。

⑪しなさき(11月上旬・10日間)    
「しな」を水でサッと濡らして指をたくみに操って、幅広いしなを細かく裂き、糸のようにします。裂き終わると一束ずつに束ねて、また乾燥させます。

⑫しなうみ              
しな糸をつないでいくのに、糸のつなぎ目に爪で穴をあけ、小さい輪を作り、次のしな糸を差し入れ、撚りこんで長い糸にします。

⑬へそかき(11月中旬)         
「しなより」を容易にするために、うみ終ったしな糸は「おほけ」にたまったものをそのままひっくり返し、「へそかき」をします。中に親指を入れながら巻いていきます。

⑭しなより(11月末~12月初旬・3日間) 
乾燥すると、ささくれるので「へそ」を充分に濡らして「糸より」をします。

⑮枠移し(12月中旬)          
「うったて」という台に木枠を乗せて、手回しで「つむだま」から糸をうつしていく。

⑯整経(12月下旬・1日間)       
「へば」(整経台)に糸を引っ掛けていくのに歩く回数を少なくするため木枠を10個以上常備し、穴の開いた板に糸を通し、上下往復して一つ幾分の経糸を掛けていきます。

⑰ちきり巻き            
間に「はたくさ」をはさみながら、機織り機の心棒「ちきり」に巻いていきます。

⑱綜光通し(2月中旬・2日間)     

⑲おさ通し

⑳おりつけ布に結ぶ

㉑くだ巻き

㉒ 織り(3月中旬~下旬・10日間)    
昔から織られている「いざり機」や、改良された「高はた」で織られています。

「関川しな織センター」ではバッグや帽子、小物類が購入出来ます。手間や時間を考えるととても買いやすいお値段で、作業に見合っているのか心配になります。

関川には、鼠ケ関川に流れ込む3本の源流が走り、夏にはこどもたちが魚を追います。 そして8月になると、”しな煮”や”しな漬け”の工程を終えたしなの繊維を住民たちがこの川で洗うのです。しな織にとって山と川はなくてはならないものなのです。

関川のしな布は、その美しさと伝統的な価値から、多くの人々に愛され続けており、地域の特産品として大切にされています。しかしながら現在は後継者不足に悩まれており、山形県や鶴岡市もその伝承に苦慮されているようです。後継者育成として研修生を受け入れていたとのことですが、県外から来た研修生が県外に帰っては関川のしな布の維持に貢献しませんし、帰ってからすぐに辞めてしまう人も多いようです。どの伝統工芸でもそうですが、作り手が安心して生活できるような収入を得られるようにならなければなりません。それには今の価格は安すぎると言わざるを得ません。しかし使い手の裾野も拡げていかなければ工芸品の価値は高まりません。問屋などで生じる流通コストを下げて、意匠やブランディングを高めて販売価格を上げていくしかありません。伝統的な製法を維持しつつも価値を高めて販売方法を新しくしていく、今が転換期のような気がします。

関川は戊辰の役最後の激戦の地として知られています。この戦いは本州における戊辰戦争最後の激戦となり、関川は庄内藩で唯一新政府軍側に占領された地となりました。庄内側は多くの死者を出し、生き残っても関川は破壊と略奪により、以来極貧の生活を強いられたそうです。今の関川にはその歴史の石碑と案内板が立つ以外に戊辰戦争の面影はありません。本当に静かで美しい場所です。

この美しい地が生み出す国を代表する工芸品の「しな布」。canosaではまだお取り扱いはありませんが、微力ながらその素晴らしさを拡める役割を考えていきたいと思っています。