canosa story Vol. 14 ていねいな暮らしに必要なもの~「元重製陶所」のすり鉢とおろし器
canosa story Vol. 14
今回はcanosaの店舗でも「こういうの探していたのよね!」というお喜びの声と共によく売れる定番アイテムをご紹介します。(吉良のレポート)
そのまま食卓に出しても様になる、ありそうでない丸っこく可愛いカタチ。毎日の料理がとても豊かに見えるすり鉢とおろし器を専門に作る「元重製陶所」は島根県西部・石見地方の江津市にあります。通常の焼成温度よりも高い、1300℃以上の高温で焼き上げることにより、まるで磁器のように硬く軽くて丈夫な石見焼は、その耐久性の高さから、古くは水がめに多用されてきた石見地方を代表する伝統工芸品です。そんな石見焼の文化が残る江津市には、現在も多くの窯元がありますが、大正14年から続く名門「元重製陶所」は、高品質・低価格な「すり鉢」と「おろし器」を全国に発信しています。
梅雨明け直後の暑い夏の日に「元重製陶所」に伺い、専務取締役の元重慎市さんに工房というより工場というべき大きな作業場を案内して頂きました。各所に配置された職人さんの間をベルトコンベアが走り、夥しい数の仕掛品が流れていきますが、重要な部分の加工はほとんど手作業で行っています。その熟練の技術には目を瞠るばかりです。あっという間にすり鉢の櫛目を入れていきます。おろし器の注ぎ口も素手で成形します。暑い日でしたが作業場の中はさらに暑くて職人さんは汗びっしょりでした。
元重製陶所は、初代の元重頼市氏によって創業され、水がめや漬物用かめなども生産していましたが、水道の普及に伴い需要が減少し、植木鉢の製造に転換しました。しかし、70年代に植木鉢もプラスチック製品に代替され、売り上げが急減しました。この窮状を救うべく、元々大手電機メーカーの技師だったという社長の元重彰治氏さんは1981年に家業に戻り、それまでの主力商品だった水がめや植木鉢からすり鉢とおろし器に特化した生産にシフトすると同時に、技師だった経験や技術を活かして独自の生産ラインや加工機器を開発したそうです。それによって手仕事の高品質なすり鉢を安く大量生産することに成功しました。
シンプルな構造のすり鉢やおろし器ですが、すり鉢の底にシリコンゴムをつけるなど、滑らないようにも工夫していますので片手で調理できるのも特徴です。右利き・左利き用がなく、すべて両方で使えることもポイントです。すり鉢の「櫛目」もおろし器の刃も鋭さにこだわっているため、力を入れなくてもスムーズに流れるような使い心地です。大根なんて調子にのって手まで卸してしまいそうです。すり鉢は「ごま」だけではなく、ポテトサラダやドレッシング、パスタソースやタルタルソース、離乳食や介護食など使い方はアイデア次第で無限大に拡がります。電子レンジもOKです。フードプロセッサーは最初は嬉しくてあれこれ使いますが、手入れが面倒でそのうちキッチン棚の奥の方に眠ってしまいますよね。ところがシンプルなすり鉢やおろし器は軽くて扱いやすいうえに、手入れが簡単なのでずっと長く使えるものです。シンプルでていねいな暮らしに相応しいものではないでしょうか。
専務取締役の元重慎市さんも元大手電機メーカーの技師だったということで、日々の生産計画と生産ラインの構築にはとても工夫しているようでした。また自社ブランディングにも相当苦慮されたようで、その苦労話と情熱に思わず引き込まれて長居してしまいました。
この地方は石州瓦の一大産地。赤く艶のある瓦の家屋に統一された町並みと緑の畑の対比は本当に美しい地域です。その石見焼本来の丈夫さと独自の技術をいかんなく活かした製品づくりを続ける「元重製陶所」。上質な手仕事を求めやすい価格で提供するために努力を惜しまない作り手さん。使い手もそれに応えてていねいな暮らしに役立てていきたいものです。