canosa story Vol. 19 信楽焼 - 土の記憶が息づく焼き物

canosa story Vol. 19
今回は信楽焼についてのお話です。(吉良のレポート)

信楽焼(しがらきやき)は、滋賀県甲賀市信楽町を中心に作られる、千年以上の歴史を誇る伝統的な陶器です。信楽町の土から生まれた「地元の宝」ともいえる存在であり、その独特の風合いと技術は、信楽の特有の陶土「信楽土」と、周囲の自然や歴史の影響を受けて育まれました。信楽焼は、日常使いの食器から装飾品、さらには浴槽や洗面器など、多岐にわたる用途に用いられ、その温かみのある色合いと素朴な風合いで、多くの人々を魅了し続けています。

信楽焼のルーツは、紀元前1世紀の弥生時代にさかのぼります。信楽の地は、古くから陶器の生産が盛んであり、奈良時代や平安時代には、日用品や祭器として信楽土が用いられていました。時を経て、信楽焼は戦国時代に大きく発展します。16世紀後半、織田信長や豊臣秀吉などの戦国大名、そして千利休をはじめとする茶人たちの影響により、信楽焼の需要が急増しました。特に、豊臣秀吉が茶の湯文化において信楽焼を愛用したことが、その名声を高める大きな契機となりました。

江戸時代に入ると、信楽焼は産業として確立し、多くの窯元が誕生。茶道の発展とともに、信楽焼の茶碗や急須が広く愛用されるようになりました。その素朴で温かみのある風合いが、茶人たちの心を引きつけたのです。また、京都や大阪に近い地理的条件も信楽焼の普及を後押ししました。信楽焼の焼成には「登り窯」が使用され、薪を燃やして焼き上げることで、独特の色合いや質感が生み出されました。

明治時代から大正時代にかけて、信楽焼は西洋文化の影響を受け、新しい技術やデザインが次々に取り入れられました。これにより、信楽焼の世界はさらに広がり、家庭用食器や装飾品のバリエーションが増加しました。昭和時代に入ると、シンプルで実用的なデザインが主流となり、信楽焼は日常生活に欠かせない存在となりました。同時に、現代の陶芸家たちが信楽焼をアートの領域へと発展させ、自由で斬新な作品が次々と誕生しています。

現代においても、信楽焼は伝統を守りながらも、ライフスタイルの変化に対応したデザインや技術を取り入れています。信楽町には多くの陶芸作家や工房が集まり、その魅力は世界中で高く評価されています。特に欧米やアジアでは信楽焼の人気が急上昇し、「日本の伝統工芸」としてだけでなく、世界のアートの一部としても注目されています。

信楽焼の最大の魅力は、その製造に用いられる「信楽土」にあります。信楽土は、信楽地域で採れる天然の陶土で、鉄分を豊富に含みます。この鉄分が、焼成後に信楽焼特有の色合いを生み出します。焼き上がりには赤茶色、黄色、黒色などが現れ、これが信楽焼の素朴で温かみのある風合いを生み出すのです。また、信楽土は粒子が粗く、ざらついた手触りが特徴です。この質感が信楽焼の魅力を引き立てるだけでなく、吸水性と通気性を高めています。そのため、急須でお茶を淹れると温度が適度に保たれ、まろやかな味わいが楽しめます。さらに、焼成時に生じる微細な気泡が、不純物を吸収し、飲み物や食材の風味を引き立てるとされています。


信楽焼といえば、まず「狸」の置物を思い浮かべる人も多いでしょう。その理由には、歴史的背景、文化的要素、縁起の良さが関係しています。

・伝統的な焼き物の技術との融合
江戸時代以降、遊び心のある焼き物が作られるようになり、動物の置物も制作されました。その中で、愛嬌のある狸の姿が人気を集め、信楽焼の代表的なモチーフとなりました。

・昭和天皇との関係
1951年(昭和26年)、昭和天皇が信楽を訪問した際、沿道に信楽焼の狸の置物が並べられました。天皇はこれを大変喜び、「かわいいものだ」と感想を述べたとされています。これを機に、信楽焼の狸は全国的に広まりました。
 
・縁起の良い「八相縁起(はっそうえんぎ)」
信楽焼の狸には、商売繁盛や金運、良縁をもたらす8つの縁起が込められています。

笠:災難を避ける
大きな目:周囲をよく見て正しく判断する
笑顔:愛嬌を持ち、人々と仲良くする
通い帳(帳簿):商売繁盛を願う
大きなお腹:冷静さと度胸を持つ
金袋:金運・財運を招く
太い尻尾:物事の終わりをしっかりと締めくくる
徳利(とっくり):人徳を積み、人との縁を大切にする
 
・たぬき=「他を抜く」縁起担ぎ
「たぬき」という言葉は「他を抜く」という語呂合わせで、競争に勝つ、成功するという縁起を担ぐものとして商人たちに好まれました。現在でも、商店や飲食店の入り口に信楽焼の狸の置物が飾られているのは、この縁起の良さが広く信じられているからです。


信楽焼は、千年以上にわたり進化を続けながら、伝統と革新を融合させてきました。その機能性と美しさは、茶道具としてだけでなく、家庭用食器やインテリア、アート作品としても広く愛されています。時代とともに変化しながらも、その魅力を失わず、多くの人々に親しまれ続ける信楽焼。その土の記憶が息づく焼き物は、これからも世界中で輝き続けることでしょう。

もちろんcanosaで販売している信楽焼も直火OKなお釜やお鍋など機能性に優れたものが多い一方、美しくもシブい伝統と革新性を感じさせる陶器が揃っており常に人気があります。