canosa story Vol. 36 伝統と革新のあいだで~丹波源右衛門窯
日本六古窯のひとつとして、八百年以上にわたり受け継がれてきた丹波焼。
美しい里山を抱く兵庫県三田市の静かな山あいに、平安の昔から脈々と続く陶の郷があります。
この地において、焼き物は決して特別なものではありません。
かつては壺や甕、すり鉢といった「暮らしの道具」として、土と火に向き合う営みが、呼吸するように日常の中に溶け込んでいました。
1. 絶えることなく、受け継がれる火
六十以上の窯元が並ぶこの立杭の地に、丹波焼の里のシンボルである「最古の登り窯」があります。百二十年もの時を経て、全長四十七メートルにおよぶその窯は、今も現役で火が焚かれ、訪れる人に丹波焼の歴史を伝えています。
その最古の登り窯にほど近い高台に源右衛門窯はあります。
明治の初めから続く初代の名を継ぐ五代目・市野晃司さんと、六代目の太郎さん。そして晃司さんと結婚後五十年にわたり、伝統技法である「鎬(しのぎ)」入れの作業を担い続けているお母さん。源右衛門窯は、この三人の家族の手によって営まれています。
大正・昭和の民藝運動において、柳宗悦らがその「無名の美」に光を当てたとき、丹波焼は単なる実用を超え、「用の美」を体現する存在として広く知られるようになりました。源右衛門窯を預かる「市野家」は、その変遷を家族で受け継ぎながら、丹波の中でも独自の表現を拓き続けてきたのです。
2. 「タロリアンブルー」という、無二の青
しかし、源右衛門窯の本質は、伝統を守るだけでなく、現代の生活に合わせて静かに変化し続けてきた点にあります。
現在、当代・市野太郎氏の手によって、丹波の土は新たな表情を見せています。目を引くのは、深く澄んだ青、通称「タロリアンブルー」と白の対比。重厚な丹波の土という土台に、焼成と釉薬の工夫によって立ち上がるこの色彩は、現代の住空間に静かな鮮やかさをもたらします。
伝統と現代の感性が交差する、その象徴とも言える文様。モダンな「市松」、心躍る「花模様」、リズムを刻む「水玉」。それらは伝統に根ざしながらも、現代の食卓に軽やかな彩りを添えてくれます。
3. 「用の美」は、愉しむ心とともに
源右衛門窯の作陶は、常に“土の声を聞く”ことから始まります。鉄分を抱いた土の野性味を、どう活かし、どう遊ばせるか。均一な工業製品にはない、手仕事ゆえの「微かな揺らぎ」を愛でる姿勢はそのままに、太郎氏の作品は「使う楽しみ」に「眺める歓び」を添えてくれます。
料理を盛れば、その佇まいは自然に食卓に馴染みながら、静かに空気を明るくする。それは、忙しない日々の中でふと心を整えてくれる「陶のスパイス」です。
4. canosaが、この窯に託すもの
canosaが大切にしているのは、「整える暮らし」と「時を越えて続いていく道具」。そして、そこに宿る「新旧の調和」です。
源右衛門窯の器は、長い年月が育んだ安心感と、新しいデザインがもたらす心地よい刺激を、自然なかたちで届けてくれます。流行を追うのではなく、時代とともに変化し続けるものを選ぶこと。その視点は、私たちの目指す店づくりと深く重なります。
5. 土の記憶を、いつもの食卓へ
伊丹や神戸の空港から1時間弱。都会の喧騒が遠のいた先に、その豊かな里山は広がっています。
秋、canosaに源右衛門窯から届く「丹波の黒豆」は、言葉を失うほどの滋味に満ちています。良質な土があるからこそ、力強い器が生まれ、豊かな実りが育つ。丹波は、土を起点にした営みが静かに巡っている場所なのです。
丹波の土、窯を抜ける火、そして市野家の人々の手と感性。それらが重なり合って生まれた器は、あなたの手で使われることで、ようやくその在り方が完成します。
特別な日ではなく、いつもの朝に、いつもの晩に。
タロリアンブルーの青を傍らに、静かに整っていく暮らしを。
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