canosa story Vol. 5 民芸の島 竹富島

canosa story 第五回目

始めてこの島に渡ったのはもう30年前も前だろうか。観光客がイメージする、まさに「南国沖縄」の縮図のようで、静かで素朴な集落と美しいビーチが印象的だった。それが訪れるたびに洗練された店が増え、立派な宿泊施設が出来、石垣から10分ほどで渡れる船は人でごった返していた。それでも島内を歩けばいつしか人の気配は消え、砂利を踏む自分の足音と遠くで三線の音色だけが聞こえる静寂が、沖縄の原風景のような集落とともに残っている。

その集落の最奥部に「アトリエ五香屋」はある。美しい古民家風の家屋に上がらせていただくと、八重山冨崎の赤土を使い、沖縄安冨祖の白泥の上に線彫りの「魚文(タマン)」、おおらかな菊花や月桃を描く「染付」、島ヤギや水牛、シロハラクイナなどを西欧のユニークなスタイルで描く「パテルナ文」、島の原風景やかわいい踊り子の姿を伝える「みんな文」など、​海碧釉と自然灰釉を使った素朴で繊細に表した器たちが所狭しと並べられていた。作家の水野氏は信楽や笠間などで修業されて、この島に移り住んでから30年間、伝統的な技術を現代風にアレンジして、まさに新しい伝統的やちむんを作っている。

canosaでもアトリエ五香屋さんの作品を取り扱っているが、特にオンラインショップでの人気が高い。それだけ県外のやちむん好きを虜にしてやまない魅力に溢れている。

そう言えば、竹富島は、外村吉之助、柳宗悦、バーナード・リーチ、濱田庄司、芹沢銈介各氏ら民藝運動家(白樺派)がこぞってこの島の「民藝」を絶賛したことから、「民芸の島」とも呼ばれていたらしい。確かに今でもやちむんだけでなく、機織や草木編みなど伝統的な民具作りをされる島民は少ないながらもいるそうだ。

30年前の話に戻るが、殺伐とした日常に疲れ、「いつか沖縄に住む」と決意させてくれたのは、この島のレンタサイクル返却所のオバーが「涼んでいきなさい」と出してくれた冷たいさんぴん茶と黒糖の美味しさだったような気がする。