canosa story Vol. 9 思い出の萩焼

canosa story 第九回目 
今回はcanosaオーナー兼バイヤー吉良の萩焼についてのストーリーです


自分が生まれて始めて陶器を購入したのは、高校の修学旅行で訪れた萩の専門店でした。男子10人ほどだったか自転車で松陰神社などの名所巡りにも飽きて、そろそろ土産を買おうと寄ったのは、店頭に赤い蛇の目傘と縁台が設えられた、今だと「インスタスポット」間違いなしの古風な店でした。見るからに高校生には敷居の高そうな店構えでしたので、じゃんけんで誰が一番初めに店に入るか決めたことを覚えています。年配の店主と奥さんは、嫌な顔一つせずに、陶器などに興味のあるはずのない高校生たちに丁寧に萩焼の特徴などを説明してくれ、萩焼の湯飲みで玉露を入れてくれました。それは家で飲むお茶とは違ってトロっとしていて苦くて甘くてとても美味しかったのを鮮烈に記憶しています。お茶の美味しさに感激して、まんまと皆それぞれカップや湯飲みなどを買って最後に店主と記念撮影をして店を後にしました。自分は湯飲みを買いましたが、今でも実家にあるはずです。

そういう思い出もあり、canosaを始めて「萩焼」は是非とも取り扱いたい陶器の一つでした。しかし「一楽二萩三唐津」という言葉もある通り、萩焼と言うと梅花皮(かいらぎ)や切り高台などの技法を用いた茶陶で有名です。不走庵三輪窯の三輪休和や三輪壽雪など人間国宝も輩出しており、民芸品というより美術品というイメージではないでしょうか。しかし一方で高校生でも手に取れるほどの身近さも兼ね備えており、しかも保温性がよく使い込むほどに味わいが増すため、長く愛用することが出来る陶器でもあります。萩焼の最大の特徴である、表面の「貫入」という釉薬の細かいヒビは、陶器独特の柔らかな光沢や素材感を生み出し、長年使っていくうちに茶や酒がこの貫入に浸透して茶碗の色彩が変わり、茶人の間で言う「茶馴れ」や「萩の七化け」という経年変化は使うほどに愛着を深くします。
しかしながら焼き上がった萩焼に、お茶やコーヒーなどの色の強いモノを入れると貫入から浸透して、 食器がすぐに真っ黒になってしまった!ということもあり、萩焼は取り扱いに十分注意が必要です。

そんな中萩焼も、若い作家さんが新しい作風を生み出しています。canosaが紹介するのは金久ご夫妻が作陶する楓窯。陶工の(旧姓・小野)沙織さんは萩焼の窯元で10年以上修行し、今年(2024年)3月に自らの工房を開窯したばかりです。工房は、宇田川抱青先生が30年前まで白登山窯として使われていた窯で、沙織さんの夫である尚昌さんと改装したもの。入り口には『楓窯』の名前の由来でもある、カエデのアーチが迎えてくれます。工房のすぐそばを綺麗なせせらぎが流れる自然豊かな工房。沙織さんは山口県の伝統工芸でもある萩焼が、「長く愛せるお気に入り」となるように、普段使いしやすく日常にとけ込むような器作りを心がけているそうです。canosaでご紹介する作品も、しまいやすく洗いやすく持ちやすい、気取らない可愛い焼き物です。実際に窯にお邪魔してお話して、作品だけでなく作家さんの魅力もたくさん感じました。

萩は江戸時代から明治に時代を変えた志士たちが生まれた町。焼き物の世界もここから新しい時代に変わっていくかも知れません。