溶けていきそうな筆運びで形作られるライン。ひとつひとつ、異なる表情を見せる有機的なフォルム。 強烈な夏の日差しを優しく和らげてくれるような、やわらかな質感を持つガラスの器です。
作品名にある「自運(じうん)」とは、書道において手本を見ずに、自らの創意工夫や心の赴くままに筆を動かして作品を描き出すことを意味します。
実はこの作品、ichico氏のご実家が習字教室であることからインスピレーションを受けたもの。墨や先生が入れる朱がじんわりと滲んでゆく静謐な記憶の情景が、ガラスへと写し取られています。
それは単なるノスタルジーに留まりません。溶解炉の中で刻一刻と変化する熱いガラスを、手本のない白紙に筆を走らせるかのように、自らの感覚と呼吸だけを信じて形作っていく——。まさにichico氏による「ガラスの運筆」とも言えるダイナミズムが、この一期一会の歪みやマーブル模様の中に息づいています。
そして手本のない表現に身を委ねられるのは、作家の背景にブレない確かな技術があるからこそ。 沖縄と並ぶガラス工芸の聖地である能登島や富山で研鑽を積み、伝統的な琉球ガラス工房の分業制のなかで、日々夥しい数の硝子と対峙してきたichico氏。溶解炉の熱量、吹きガラスの技術、素材の特性を徹底的に身体に叩き込んできました。そうして培ったタフな職人としての骨格を持ちながらも、既存の商業的な枠組みにとどまらず、工芸を現代アートへと昇華させた独自の表現を追求しています。
彼女のレーベル「glass apartment 21g」の「21g」とは、「人間の魂の重さ」と言われる、目には見えないけれど確かに存在する質量のこと。
過度な装飾を排した引き算の美学の中に、計算と偶然が織りなす繊細な表情を内包する作風は、まるで光の彫刻のようです。半透明の肌が差し込む光を優しく吸い込んで、テーブルの上に結晶の揺らぎのような瑞々しい影を落とします。
手仕事ならではの心地よい「ゆらぎ」は、注いだ飲み物をどこか特別でノスタルジックなものへと変えてくれます。麦茶や冷たいお茶、夕暮れ時に氷を浮かべて味わうロックの冷酒や果実酒にはもちろん、ハーブを添えた夏のデザートカップとしても美しく映えます。
器としての実用性を備えながらも、そこにあるだけで空間が成立するオブジェのような美しさ。使っていない時間も、ただ窓辺や食器棚に置いておくだけで、空間の空気を心地よく変容させてくれるアートピースです。
工芸と現代アートの境界を軽やかに行き来する、glass apartment 21gならではの現代の機能美を、ぜひお手元でお愉しみください。
サイズ
口径:約7~7.5cm
高さ:約7.5~8.5cm
重さ:約116~166g
※本作品は一つ一つが作家による手づくりのため、サイズや重さ、形状、気泡の入り方、質感などには個体差があります。均一な工業製品にはない、手仕事ならではの一期一会の豊かな表情(用の中にある揺らぎ)としてお愉しみいただければ幸いです。
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